今林 広樹 迷ったらGO。殻を破って、快適な場所から飛び出そう 今林 広樹 迷ったらGO。殻を破って、快適な場所から飛び出そう
私のアントレプレナーシップ インタビュー
#2
スタートアップに挑戦する
今林 広樹
Hiroki Imabayashi
EAGLYS株式会社 代表取締役社長/CEO

迷ったらGO。
殻を破って、快適な場所から飛び出そう

学生時代にEAGLYS株式会社を起業し、スタートアップ業界のみならず日本の経済界でも注目を浴びる今林広樹さんは、アントレプレナーシップを体現する若き経営者です。大学時代は麻雀に明け暮れ「不真面目だった」と言う今林さんの身に、いったい何が起こったのか。キーワードは、「AIとセキュリティ」。二つの技術が融合したとき、歯車が回り始めました。

今林 広樹 プレゼンイメージ

麻雀漬けの日々からAI漬けの日々へ

EAGLYS株式会社は、AIとセキュリティという技術を使って、業界の機密情報や個人情報をセキュアに扱いながら、AIで解析できるサービスを提供しています。顧客は金融業界や製造業、交通・インフラ系のような、日本を支える重厚長大な産業の大企業が中心です。メンバーの多くはエンジニアで、そのうち6割ほどがAIやセキュリティ、量子コンピューターといった世界最先端の技術領域の博士号を持っています。そうした専門家が世界10カ国から集まった、グローバルでダイバーシティがあふれる組織です。

子どものころから、人と人とのコミュニケーションを一歩引いて観察するタイプでした。祖父が会社を経営していたため、普段から家庭内でも従業員や経営に関する話題が飛び交っており、「なぜこの人はそう考えたのか」といったことを考える機会が多かった。そこから、人間の脳に興味を持ち始めました。中高生のころには人間の思考の複雑性など、“生体”分野に興味があり、早稲田大学理工学部の生命医科学科に進学しました。ただ、大学に入ると、広島の親元を離れ上京した開放感から、遊んでばかりいました。忙しい学部だったのですが、1、2年生のころは友達と麻雀に明け暮れて、普通の学生だったら勉強するような期間も麻雀ばかりしていましたね。

今林 広樹 麻雀をしている様子

変わり始めたのは3年生から。友人たちの意識が高くなり始めて、自分もそろそろ将来について考えなければと思い、インターンシップを経験したんです。そこで、アメリカのスタートアップについてたまたま調査する機会があり、AIの技術に出会いました。もともとあった脳への興味とAIが結びついて、そこからは独学で必死に勉強しました。その後、『WASEDA-EDGE』というシリコンバレーでインターンシップができるプログラムに参加したのですが、その経験が自分の中のアントレプレナーシップなるものに、最初に“着火”してくれたイベントだったと思います。

今井 広樹 PC作業中画像

シリコンバレーで受けた衝撃

シリコンバレーでは、Googleが開催する社員食堂でのイベントなど、いろいろな場所に足を運びました。中でも自分にとって衝撃的だった経験があります。向こうでは『Meetup』というアプリを利用して、AIやデータ、セキュリティなど分野ごとにグループを作って語り合う機会があるんです。みんな楽しそうに自分の興味のある領域について語り合っているのですが、僕は英語を話せず会話ができない。そもそも、自分の中に語れる専門性もコンテンツもない。AIについては勉強こそしていましたが、彼らほど経験がありませんでした。「こんなことやりたいんだ」、「こんな技術を僕は知っているんだ」、「いま実際にプログラムを書いてる」と、自信を持って語っている彼らの姿を見て、「ああ、このままじゃ生きていけないな」と、自信を失ってしまいました。日本では、そんな体験をしたことがなかった。「自分の中に意志を持つ」、「人に語れるコンテンツを持つ」、「自分の中に一本の軸を作る」、といったことの大切さを痛感させられた、それが最も衝撃的な出来事でした。

自分の中に、人に語れるものを作るため、まずインターンシップ先の社内で、自分がAIエンジニア、データサイエンティストとしてできることを探しました。あるとき、ニューヨークまで足を運んでビッグデータ系のイベントに参加し、レポートをまとめたところ、「これはすごく使える」と評価してくれた。「投資をするためにすごく貴重な情報、最先端の情報がここに集まっている」と言ってくれたのがすごくうれしくて、それ以来、新しい領域の技術を探索して、自分の知見にするということを積み重ねていきました。すると少しずつ、自分の中に語れるコンテンツができてきて、「これがあれば社会で渡り合っていける」と、自分の存在意義を取り戻していきました。

今井 広樹 インタビュー画像

データサイエンスやAIに、会社のデータを用いて取り組んでいたときに感じた課題が“セキュリティ”でした。じつはそれが起業したいまの会社のベースの技術につながっているのですが、「僕は、世の中のデータを全て暗号化したまま処理する世界を作りたい」といったことを現地の方に言って回っていたら、「すごく面白いね、その世界は今後のプライバシーの世界ですごく重要だよ」と、褒め称えてくれたんです。自分の意思を持って語ると、そこにフォロワーがついてきてくれる。シリコンバレーで得られた、貴重な気づきでした。

帰国後、『WASEDA-EDGE』プログラムの一環で、インダストリー業界の企業に、自分のアイデアを提案する機会が何度かありました。そこである企業の方に、「このソリューションはまったく意味がわからない。暗号化、何それ。ジップファイルみたいなやつ? 自分の業務にどう使えるのかイメージができない。よくわからないものを提案しないでくれ」と、否定されたんです。「この技術があれば機密情報をクラウドに上げられるようになるのに」と思っていたのですが、「これを売りたいんだ」と前のめりになりすぎていた。彼らが課題を解決するために、どのようなアプローチを取ろうとしているのかを聞き出して、そこに対して解決策を提案するという、ビジネスでは基本的で大切なことを、『WASEDA-EDGE』プログラムで学んだはずなのに実践できていませんでした。苦い経験でしたが、そこに気づけたことは、いまの自分にとって大きな財産となりました。

今井 広樹 インタビュー画像

迷ったら、自分の領域から外に出ていくべき

アントレナーシップがないと、他人にコントロールされる人生になってしまいます。自分がやりたいこと、意思を持つことがすごく重要で、意思があれば、アントレプレナーシップは自然と醸成されるものだと思うんです。そういった意味では、一度、自分の心が着火すれば、あとは自然と転がりはじめます。僕の場合はシリコンバレーで着火し、帰国後、その火を『WASEDA-EDGE』プログラムでさらに大きくしていきました。

これからアントレナーシップを学ぼうとしている方に向けて言いたいことは、「迷ったらGO」。誰もが最初は自分の領域から外に出たくないじゃないですか。できれば快適な場所にこもっておきたいと、僕自身も思ってきたし、大学生活の最初のころはいつもそうでした。でも、迷ったときに、自分は外部のネットワークに出て行くと決めてやり続けていると、自分をサポートしてくれる存在が出てくるものです。殻に閉じこもっていたら何も生まれないので、「迷ったらGO」しかないなと思います。