


自分に自信を与えてくれたアントレプレナーシップ
自分に自信を与えてくれたアントレプレナーシップ
山形県でセルフエステ事業と医療用ウィッグ事業を展開する中川愛子さん。かつては、父が経営する理美容室のフランチャイズ店舗を任されながらも、思うような成果を出せず、大きな挫折を経験しました。転機となったのは、山形大学のアントレプレナーシップ育成プログラム「EDGE-NEXT」との出会い。ある考え方に触れたことが、彼女の人生を大きく動かすきっかけとなります。プログラムで得た知識と自信を糧に、経営者としての道を歩み始めた彼女に、人生を切り拓く力となった“アントレプレナーシップ”についてお話しいただきました。
●自らの思いを形にした二つの事業を展開
現在、山形を拠点に、外見に悩みを抱える方々に寄り添う美容サービスを展開しています。事業は二つあり、一つはセルフエステ事業の『meemotto(ミーモット)』、もう一つは医療用ウィッグを扱う『Aillbe(アイルビー)』です。
『meemotto』は、「エステに興味はあるけれど、高くて通えない」「忙しくて定期的に通うのが難しい」といったお客様の声にお応えして誕生した、月額制のセルフエステサロンです。業務用の本格的な美容機器を導入し、自分のペースで気軽に通える環境を整えています。通いやすい価格と高品質なケアを両立させたこのサービスには、“もっと自分を好きになりたい”“もっと自信を持ちたい”という前向きな気持ちに寄り添い、背中を押したいという想いが込められています。ブランド名の『meemotto』には、そんな「私(Me)」の「もっと」を応援したいという願いを託しました。
もう一つの『Aillbe』は、抗がん剤治療による脱毛や加齢による薄毛など、髪の悩みを抱えるお客様に向けて、自然で高品質なウィッグを手頃な価格で提供することを目指して2024年11月に立ち上げました。私自身が生まれつき右腕に少し障がいを抱えていることや、がんを患った親族の経験から、外見の変化に悩むお客様の心に寄り添い、前向きな気持ちを取り戻してもらいたいという思いが出発点です。ウィッグは消耗品であるにもかかわらず高額であることが多いです。その為、店舗を持たず、父が経営する理美容サロンのスタッフと業務委託契約を結ぶことでコストを削減し、価格を抑えながらも高品質なウィッグの提供を実現しています。
『Aillbe』の名前には、「I will be」——私はこうありたい、なりたい、という願いを込めており、お客様一人ひとりの“なりたい姿”に寄り添い、その一歩を後押しする存在でありたいと考えています。
●父親との比較から生まれた劣等感に悩む日々
学生のころは保育士を目指していて、まさか自分が起業するとはまったく想像していませんでした。卒業後は実際に保育士として働き始めたのですが、1年もしないうちに結婚を機に退職しました。出産後は育児に追われて時間の余裕も無く、しばらくはハンバーガーチェーン店でパートをしていました。
そのときも起業は頭になく、ただ目の前の仕事をこなす毎日でした。しかし、体力的な負担が大きかったことや、「このままパートを続けていていいのか?」という迷いが徐々に芽生え始めました。保育の仕事に再び戻るか、それともまったく違う道を選ぶかとても悩んでいた時期に、父から「事業拡大の一環で、理美容サロンのフランチャイズ店舗を出そうと思っており、やってみないか」という話がありました。もちろん不安もありましたが、「私もお店を持って挑戦してみたい」と思うようになり、東京にフランチャイズ店舗を出店することを決意しました。
とはいえ、美容業界はまったくの未経験。店舗は立ち上がったものの、知識も経験もない中で自信を持てず、創業経験を持つ父と自分を比較していました。父は決断力も実行力もあり、トップダウン型で人を引っ張っていけるような、まさに“起業家”という存在。そんな父の姿を間近で見ているうちに、自分は決断に時間がかかるし、人を動かす力もない。自分は経営者には向いていないのかもしれないと、強い劣等感を抱いて悩みました。
●固定観念が一変。「自分らしさ」を肯定できた講義との出会い
ちょうどそのころ、父が山形大学のアントレプレナーシップ教育研究センター長を務める小野寺忠司教授と知り合いだった縁もあり、「山形大学でアントレプレナーシップ教育のプログラムがあるらしいよ」と教えてくれました。私はこれまで経営の勉強をきちんと学んでおらず、父からも「経営は現場で学ぶものだ」といった実践的な教えしか受けていなかったため、改めて一度きちんと学びたいと思い、山形大学のEDGE-NEXTというアントレプレナーシップ育成プログラムに挑戦しました。
中でも特に印象に残っているのが、「オーセンティック・リーダーシップ」に関する講義です。これは、自分の価値観に正直に、“自分らしいやり方”でリーダーシップを発揮していくという考え方なのですが、当時の私には衝撃的でした。起業直後で父との違いに悩んでいた私にとって、「こういうリーダーの形もあるんだ」と初めて知るきっかけになったのです。この講義で紹介された“ダメなリーダー”という言葉に私は救われました。
“ダメなリーダー”というのは、周囲の意見をじっくり聞きながら、チームで合意形成していくようなタイプのリーダーです。決して上から「これをやれ」とトップダウン型のように指示を出すのではなく、平等にアイデアを出し合い、そこから磨かれた意見が自然と方向性になっていく。そんなやり方も、今の時代に合っているし、立派なリーダーシップの一つだという話を聞いて、「今の自分のままでいいんだ」と思えるようになりました。このときのことを思い出すと、初めて自分を自分で認められた気がして、いつも自然と涙が溢れてしまうんです。
それから、お店の名前──『meemotto』や『Aillbe』なども、実はこの講義の中で学んだネーミングの考え方が参考になっています。講義では、「ちょっとした自分の想いや日常の中にある言葉からでも、素敵な名前が生まれる」といったアドバイスがあって、そこからヒントを得て考えていきました。商標や知財に関する講義もとても役に立ちました。起業したばかりのころは、そのような知識がまったくなかったので、「ブランドを守る」といったことへの意識も持てていませんでした。しかし、このプログラムで学んだおかげで、そうした部分も含めて事業を考えられるようになりました。
また、ビジネスプランを作るワークもあり、ゼロから事業を作るプロセスを体験できたのは大きな財産でした。「こうやって事業って始まるんだな」という感覚を、自分の中でシミュレーションできたことは、今につながる大切な学びになったと思っています。
●もっと早くアントレプレナーシップ教育と出会っていれば
起業に関する知識を得たことで、自分に少し自信が持てるようになりました。やはり知識がないと、行動に移すのが難しく、迷って立ち止まってしまうことが多いものです。山形大学EDGE-NEXTプログラムでは、知識だけでなく、行動する力も身につけることができたと実感しています。本当に受講してよかったと思っています。
(当時の山形大学EDGE-NEXTプログラムの集合写真。前列左から3番目が中川様)
学生時代にこうしたアントレプレナーシップの講義に出会えていたら、もっと早く視野が広がっていたのではないかと感じます。父のフランチャイズ店舗を任された当初、美容業界はまったくの未経験で、内心では「やりたくないな」「一歩踏み出すのが怖い」と思っていました。父に背中を押されて始めたものの、知識も経験もなく、不安ばかりが募り、「何から学べばいいのか」と悩む日々が続きました。
そんな中でこのプログラムに参加し、「こうすればよかったんだ」と思える学びがたくさんありました。「もっと早く知っていれば、もっとスムーズに動けたのに。。。」、そう感じる場面も少なくありませんでした。だからこそ、これから何かに挑戦しようとしている方や、起業に興味がある方には、できるだけ早い段階でこうした学びに触れてほしいと心から思います。知識が行動の後押しになることを、私自身が実感しています。
●アントレプレナーシップの学びを実践。内面の変化が行動に現れる
山形大学EDGE-NEXTプログラムを受講後、「最近、変わったね」と言われるようになりました。特に父からはよく言われます。もともと自分に自信がなかったので、何かを始めるときも人に相談しながらじゃないと動けなかったんです。でも、『meemotto』を立ち上げたときは、フランチャイズ時代と違って、すべて自分で考えて決めなければいけなくて。例えばクレジット決済を導入するかどうかといった細かなことから、お店の名前をどうするかまで、自分の意思で一つひとつ選択し、実行してきました。誰かに「これってどうすればいいんだろう?」と聞くのではなく、「私はこうしたいからやる」と自分で決断し、動けるようになった。そこが以前の自分と一番違うところだと思います。
内面的な変化も大きいです。昔は「自分にはできないかもしれない」と思うことが多く、自信のなさに引っ張られていた部分もありました。でも今は、スタッフを雇用し、お互いに意見を出し合いながら、「お店をもっと良くしていこう」という想いを仲間と共有できるようになりました。自分の考えや想いをきちんと言葉にして伝えることの大切さも実感しています。そうした意味でも、自分の中身が大きく変わったなと感じます。
フランチャイズ時代は、決められた仕組みの中で動くことが求められ、自分の色を出すことは難しい面がありました。でも、『meemotto』や『Aillbe』では、自分なりに考えたアイデアを形にし、想いを反映させながら事業を作っていくことができています。「自分でも何かを生み出せるかもしれない」「自分の手で作っていきたい」──そんな気持ちが芽生えたのは、やっぱりアントレプレナーシップの学びがあったからこそ。私自身、その考え方に影響を受けていると感じています。
●「ありがとう」が原動力。必要とする人々に届けたい
事業を続けるなかで何より嬉しいのは、お客様から「ありがとう」と言っていただけること。このお店があってよかったと感じてもらえる瞬間に、大きなやりがいを感じます。
今後については、まずセルフエステ事業をより多くの方に知っていただき、必要としてくださるお客様を少しずつ増やしていきたいと考えています。そしてもう一つ、ウィッグの事業においても、本当に必要としている方の手元にきちんと届けられるよう、引き続き取り組んでいきます。このサービスを必要とする方に、正しく情報が届き、安心して選んでいただけるように。今後も一人ひとりのお客様に寄り添いながら、丁寧に事業を育てていきたいと思っています。
●“特別”じゃなくても挑戦できる。恐れず一歩を踏み出そう
私は当初、起業家とは特別な才能を持った一部の人だけがなれるものだと思っていました。でも、アントレプレナーシップ教育を通じて、「自分らしいリーダーシップのあり方」や「課題に向き合う姿勢」があれば、誰でも挑戦できるということを実感しました。
最初は誰でも不安や戸惑いがあって当然です。でもそれは、「向いていない」ということではなく、ただ「まだ知らないだけ」「まだ慣れていないだけ」なのかもしれません。私自身、保育士を目指していた学生時代を経て、ハンバーガーチェーンでのパート勤務、そして今はこうして自分の事業を立ち上げています。人生は、学びながら少しずつ変わっていけるものだと実感しています。
アントレプレナーシップ教育は、起業のノウハウを学ぶだけでなく、自分自身と向き合う大切な時間でもあります。私はこの学びを通して、自分の個性や価値観を大切にしながら、一歩を踏み出す勇気をもらいました。「こんなことをやってみたい」、「こうなったらいいのに」。そんな素直な気持ちを出発点に、ぜひ恐れずに一歩を踏み出してみてください。その一歩が、きっとあなたらしい挑戦の始まりになるはずです。