私のアントレプレナーシップ インタビュー
#13
社会課題に取り組む
山内 萌斗
Moeto Yamauchi
株式会社Gab 代表取締役CEO

人類から「ありがとう」と言われる存在を目指して

山内萌斗さんは、持ち前の行動力とアントレプレナー育成プログラム「東京大学EDGE-NEXT」で培った経験を糧に静岡大学在学中に起業し、現在は株式会社Gabの代表として社会課題の解決に挑んでいます。そんな山内さんに、これまでの歩みやアントレプレナーシップの原点、そして、これからの時代を生きるうえで大切にしたい価値観についてお話を伺いました。

●ユニークな仕掛けで、社会課題を解決する

現在6期目を迎えた株式会社Gabは、廃棄物問題をはじめとするあらゆる社会課題を「ユニークに解く」というミッションのもと、主に三つの事業を展開しています。

まず一つ目は、エシカル商品に特化したリテール事業『エシカルな暮らし』。人や動物、地球にやさしい商品を扱う国内最大級の小売プラットフォームとして、ECや実店舗を展開しています。特徴的なのは、単なる“売る場”にとどまらないこと。出店ブランドに対し、商品改善や伝え方の工夫などをサポートしています。

(エシカルセレクトショップ『エシカルな暮らしLAB』の店舗風景)

二つ目は、社会貢献とエンタメ事業を融合させたイベント『清走中』。街に落ちているゴミを拾ったり、通達されるミッションを解決して得点を競う、まったく新しいゲーム感覚の体験型イベントです。ペットボトルや缶、たばこの吸い殻までがポイントに変わり、ミッションやクイズ、アイテム交換などの仕掛けが参加者を夢中にさせます。まるで宝探しのように楽しみながら、気づけば大量のゴミを集めている、というイベントです。

(『清走中』イベント参加者との集合写真)

そして三つ目が、マテリアル事業『.Garbon(ガーボン)』。「Garbage(ゴミ)」と「Carbon(炭素)」を組み合わせたこの名前が示す通り、廃棄物を炭化して、新たな高機能素材へと生まれ変わらせる取組です。プラスチックや食品廃棄物などを炭化することで、消臭・抗菌・遠赤外線効果といった機能を備えた炭化物が生まれ、それを人工レザーや塗料、自動車シートなど多様な用途に展開します。ゴミを単に減らすのではなく、“価値ある素材”として循環させていく。この新しい仕組みを、私たちは「ネクストサイクル」と名づけました。

私たちが大切にしているのは、“正しさを伝えること”そのものではありません。大事なのは、思わず関わりたくなるようなユニークな仕掛けで、社会課題を解決へと導くこと。顧客課題と社会課題、その両方を同時に解きほぐす——その重なりを見つけることが、私たちのビジネスの核になっています。

●人生の指針となる一冊との出会い

「起業」という言葉を初めて意識したのは、高校時代です。当時、野球部に所属していたものの、思うように活躍できず、無力感に押しつぶされそうでした。頑張っているのに結果が出ない。同級生からも軽んじられ、いじめも受ける——そんな苦しい経験の中で、「自分はなぜここにいるのだろう」と真剣に悩みました。

そんなときに出会ったのが、『嫌われる勇気』という一冊の本。アドラー心理学に基づいたその考え方に、強く引き込まれたのです。中でも「人間の幸福の本質は他者への貢献にある」という言葉に、心を打たれました。それ以来、「自分が貢献できる場所を探す」ことを軸に動き始めました。野球部を辞め、小学生の頃から続けていた空手を再開。学校でも有志を募って空手部を立ち上げ、黒帯の自分が仲間に指導し、大会では実際に優勝を果たしました。自分が誰かの役に立てる、そう実感できたことで、価値観がガラッと変わったのです。「これからは貢献感を軸に生きていこう」と決めたのはこのときです。

同時に、「なぜこんなにも大切なことを学校では教えてくれなかったのか」と疑問も芽生えました。そこから自然と「教育を変えたい」という思いが膨らんでいったのです。その頃からイーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグ、ピーター・ティールといった起業家たちの本を読み漁るようになり、高校2年生の後半には、起業を前提に、「教育をどう変えるか」「どんなサービスをつくるか」といったことばかり考えていました。

人類を主語にして生きると決めた瞬間

高校卒業後、AIを学べる環境を求めて地元の静岡大学情報学部に進学しました。入学時にはすでに起業アイデアを持ち、プレゼン資料も準備済み。入学直後には情報学部の全研究室を文字通り一つひとつ“ドアノック”し、「こういう事業を考えています」と自ら説明して回るなど、積極的に動き出していました。

転機となったのは、2018年度の「東京大学EDGE-NEXTプログラム」への参加です。前期は静岡大学で、後期は東京大学で講義を受け、東京ではすでに同世代の若手起業家たちが大舞台で活躍している姿に大きな刺激を受けました。それまで起業家といえば遠い存在でしたが、“半歩先”を行く同世代の姿に、自分の未来がリアルに重なった瞬間でした。

同プログラムでは、シリコンバレーへの派遣の機会もありました。現地で最も衝撃を受けたのは、人々の“主語”が常に「自分」ではなく「人類」だったことです。誰一人として「お金持ちになりたい」とは言わず、「人類にとって必要不可欠なものをつくる」と本気で語っていた。その姿に、まるで電流が走るような感動を覚えました。率直に「なんてかっこいいんだ」と。そんな志を持つ人たちと時間を過ごすうちに、自分の悩みがちっぽけに思え、「ただ前を向いて進もう」と思えるようになったのです。あの瞬間、「自分も人類を主語にして生きよう」と心に決めました。心臓病をなくす、教育格差をなくす——そんな志を掲げる人たちを見て、分野は違っても、“人類に貢献する”という軸で自分のやるべきことを探していこうと。

帰国後はさまざまなビジネスコンテストに挑戦しましたが、初めて優勝できたのは「東京の課題解決」がテーマの大会でした。渋谷の街がゴミだらけでネズミも多いという実情に対し、「広告付きのゴミ箱を設置すれば、ポイ捨てが減り、広告収益で運営も可能になる」という発想が評価されたのです。その際、主催者から「今ここで起業しなかったら、これからゴミを捨てるたびに後悔するよ」と言われて……。「そんな人生はごめんだ」と思い、起業を即決。大学2年生の10月に休学届を提出し、11月に上京、そして12月に株式会社Gabを設立しました。

(株式会社Gab『エシカルな暮らし』事業メンバーとの集合写真)

●なぜ迷わず起業の道を選べたのか

私は根っからの楽観主義者です。シリコンバレーに行った際も、参加していた約20人の中で、実際に起業まで踏み出したのはおそらく私くらいでした。普通の人は合理的に物事を判断すると思いますが、私は不思議と「きっとやれる」と信じてしまうタイプで、理屈よりも直感で動いてしまう。実際は不器用だし、泥臭く這いつくばりながらの毎日ですが、それでも前に進み続けています。

大学入学直後、学部の全研究室を一つひとつドアノックして回ったのも、冷静に見れば非効率な行動です。でも、当時読んだ堀江貴文さんの著書『多動力』にあった「とにかく行動しろ。お前の失敗なんて誰も覚えていない」という言葉が、恥を恐れず挑戦する勇気をくれました。

私が何よりも避けたいのは、「自分が必要とされていない」と感じる時間や環境、人間関係です。高校時代に感じたあの“無力感”は、二度と味わいたくありません。だからこそ、私にとって「やりたいこと」とは、突き詰めれば“人類に貢献できること”であれば何でもいいんです。出発点は教育でしたが、今ではゴミ問題やエシカル商品など、取り組むテーマは多岐にわたります。それでもすべてに共通しているのは、「貢献感を最大化したい」という想いです。

「好きなことをやる」よりも、「嫌なことを避ける」という視点のほうが、自分らしさを見つけやすいとも思っています。好きなことに縛られると選択肢が狭まりがちですが、嫌なことを避けながら動けば、可能性は広く開かれる。私自身、「貢献できるなら何でもやる」という余白をあえて残すことで、道を広げてきました。やりたいことが見つからずに悩んでいる人にも、「嫌なことを起点に進んでみる」という選択肢があっていいと思っています。

●EDGE-NEXTプログラムで得た最大の財産は、人との出会い

私にとって何より大きかったのは、「半歩先を行くロールモデル」に出会えたことです。起業という言葉は一人歩きしがちですが、実際の起業家はもっとリアルで、もっと人間らしい存在でした。メディアで見るようなビジョナリーでかっこいい姿だけでなく、実際には葛藤を抱えながらも、喜びややりがいを見出している——その“温度感”に触れられたことで、「自分にもできるかもしれない」という実感が芽生えたのです。

地元の経営者、先輩起業家、学生起業家たちの話を間近で聞けたことも大きな刺激でした。単なる理論の学びだけでなく、具体的な「人」としてのロールモデルに出会えたことで、自分の中の起業への解像度が一気に上がった気がします。

それと同じくらい重要だと感じているのが、プログラムに付随する“コミュニティ”の存在です。「東京大学EDGE-NEXTプログラム」では、メンター企業のオフィスに足繁く通っていた時期があり、そこで出会った方が起業家のネットワークへとつないでくれました。現場では、まるでカバン持ちのような立場でさまざまな人と関わり、起業家のリアルな姿が徐々に立体的に見えてきたのです。

プログラムから得られる学びはもちろん大切ですが、何より価値があるのは、その周辺にある“人とのつながり”。ロールモデルやメンター、そしてその先に広がるコミュニティこそが、自分を大きく成長させてくれたと実感しています。

(シリコンバレー研修でのGoogle社前集合写真。最前列の右から2番目が山内様)

●人生の可能性を切り開くアントレプレナーシップ

今の時代に本当に求められているのは、「自分で自分の道を切り開く力」だと思っています。たとえ企業に就職したとしても、理想の仕事にたどり着くには時間も努力も必要で、受け身のままではチャンスを掴めません。だからこそ、自分の意思で動き、望むポジションを自ら取りに行く力——それがアントレプレナーシップだと感じています。

「ここに行きたい」という志を持って自ら行動を起こす力は、就職後のキャリア形成はもちろん、転職や独立といった人生の転機にも欠かせません。アントレプレナーシップがあれば、たとえ組織の中にいても、自らの責任で新たな挑戦に踏み出すことができる。つまり、それは人生の可能性を広げる力だと感じています。

今、AIの進化によって「人間でなくてもいい仕事」が急速に増えています。私自身、業務の半分ほどはすでにAIに代替されつつあると感じています。そうした時代においては、ただ待っているだけでは埋もれてしまう。自分の価値をどう発揮し、どう必要とされるかを主体的に考え、動ける力がますます重要になります。

一方で、今は自己実現しやすい時代でもあります。起業支援プログラムや投資家の存在、そしてテクノロジーの進化によって、アイデア次第で一人でも事業を興すことが可能です。AIを活用すれば、10人分の力を一人で発揮することもできる。だからこそ、アントレプレナーシップを持った人ほど、これからの時代をより自由に、より豊かに生きていけるのではないかと思っています。

●挑戦は成功までの必要なプロセス

エジソンが「1万回失敗しても、それは成功しない方法を1万通り見つけたということだ」と語ったように、私も失敗はすべて成功へのヒントだと捉えています。1回でうまくいくことなんてなくて、むしろ「うまくいかない方法」を見つけること自体が挑戦なのだと思います。だからこそ、将来に悩んでいる人には、目先の失敗にとらわれず、長期的な視点で挑戦を続けてほしい。挑戦は「成功までの必要なプロセス」だと思えれば、きっと前向きに一歩を踏み出せるはずです。

私の夢は、「人類からありがとうと言われる存在になること」です。自分がこの世界にいたことで、何かしらの変化が起きた。たとえば歴史の流れが少しでも変わったとか、人類がほんの少し延命できたとか、より豊かな時間を過ごせたとか、そんなふうに、自分の存在が確かに人類に影響を与えたと思ってもらえる人生を目指しています。

まだ道のりは始まったばかりです。自分の中では、ようやく0.5合目に立ったくらい。でも、いつか本当に人類から「ありがとう」と言われるような存在を目指して、これからも挑戦を続けていきたいと思っています