#1 「人生はプランとプレゼン」。意志を持ち、伝えることの大切さを学ぶ #1 「人生はプランとプレゼン」。意志を持ち、伝えることの大切さを学ぶ
私のアントレプレナーシップ インタビュー
#1
企業の中で活躍する
五十嵐 有佳
Yuka Igarashi
株式会社 小島総本店 事業開発室 兼務 販売課

「人生はプランとプレゼン」。
意思を持ち、伝えることの大切さを学ぶ

五十嵐有佳さんは、山形大学在籍時に受講したアントレプレナーシッププログラム『EDGE-NEXT』で得た経験を生かし、山形県の日本酒製造会社で働いています。もともと「自分の意見を言えない性格」だった彼女が、いかにしてアントレプレナーシップを身に付けていったのか。プログラムを通じて自分の中に起こった変化を語っていただきました。

米糀のあまさけ

現在は山形県の日本酒製造会社である株式会社小嶋総本店で、ノンアルコールブランド『米糀のあまさけ』という商品の、商品開発とプロモーション、販売を行っています。ほかには、オンラインストアの企画やメールマガジンの作成、お酒の紹介など、弊社の商品を楽しんでいただくためのブランディングを担当しています。

入社のきっかけは、大学時代にお会いした、いまの上司であり若おかみ(事業開発室長 小嶋千夏様)の存在が大きいです。ちょうど就職活動中で進路に迷っていた際に、酒蔵の見学に誘っていただき、そこで日本酒の美しさに魅了されました。会社としても新たな取り組みとして、ノンアルコールの発酵食品のブランド開発に挑戦しようとしていた時期だったので、私もその新規事業に関わりたいと思い、入社を決意しました。

『米糀のあまさけ』を開発するにあたっては、いまある設備やノウハウの中で、「何を作れるのか」「誰に届けたいのか」ということをチーム内で何度も話し合い、いまのパウチ型の商品にたどりつきました。『米糀のあまさけ』は健康を意識している方々に向けた商品です。「肌の状態を整えたい」、「朝から気分良く過ごしたい」、こうした願いを持つ方々に、発酵によって作られた栄養素を、日々の暮らしの中で気軽に取ってもらいたいという思いを込めて作っています。自分が開発に関わった商品を通して、誰かの役に立っているということが感じられて、すごくやりがいを感じています。

『EDGE-NEXT』では『地域連携プログラム』

『EDGE-NEXT』でビジネスと情熱に触れる

山形大学で、アントレプレナーシップ教育のプログラム『EDGE-NEXT』を受講しました。たまたま友人に誘われて参加した『EDGE-NEXT』のキックオフミーティングで、起業家の先生が「君ならできる」、「こうやればすぐできる」と前向きな言葉をたくさんかけてくださいました。当時は将来に漠然とした不安があり、明確な将来像も描けていなかったため、その言葉で希望が持てました。もともと、人に合わせてしまいがちなタイプで、自分の意見を言えない性格だったのですが、自分を出せる場所が一つ増えたことがうれしくて、『EDGE-NEXT』に参加するようになりました。

『EDGE-NEXT』では『地域連携プログラム』に参加しました。山形県の飯豊町という人口約7,000人の小さな町で、フィールドワークを通して課題を発見し、その解決策を協議して形にするというプログラムです。具体的には、若乃井酒造という酒蔵に協力していただき、地域の方々と一緒になって「どうしたら町がもっと良くなるか」といったことを話し合いました。そこでまとまったアイデアが、東北地方南部近辺にしか咲かないと言われる『ヒメサユリ』という花をイメージしたお酒を造り、地域の特産品として販売するというものでした。約2年間、商品パッケージのデザイン、調査・マーケティング、酵母開発などに取り組んだ結果、酵母取得までは難しく最終的には商品化できなかったのですが、そのプログラムの過程で多くの学びがありました。若乃井酒造さんにはビジネスの進め方を、担当の戸田達昭先生には情熱を持つことの大切さを教えていただきました。

五十嵐 有佳インタビュー

中でも印象に残っている出来事があります。東北芸術工科大学でデザインの勉強をされている学生さんに、デザイナーとしてプログラムに参加していただいたのですが、はじめはまだ財源がなかったため交通費すら出せず、「ごめんね」と謝ったことがありました。無理に誘ってしまってはいないかと思っての発言だったのですが、その方から「有佳さんが言っていることを私もやってみたいと思ったので、謝らないでください」「一緒に良いものを作りましょう」と言っていただきました。そのときはじめて、思いが伝わることのうれしさと、「こうやって物事を形にしていくのだな」ということを実感しました。

もう一つ、心に残っていることがあります。『EDGE-NEXT』で講師を務められていた慶応大学の廣川克也先生が授業で言っていた「人生はプランとプレゼンだ」という言葉です。「どうしてもかなえたいことがあるときに、相手に納得して参加してもらうために、いかに準備をするか、そしてそれをどう伝えるか、ということにつきます」とおっしゃっていて、当時、頭では理解したつもりだったのですが、その後、プログラムを進める上で、誰かにお願いごとをしたり、相談をしたりする場面が増えて、ことあるごとにその言葉の意味を実感するようになりました。いまでも相手に自分の思いを伝える際は、「人生はプランとプレゼン」という言葉が頭に浮かびます。

米糀のあまさけ作り

熱意を持って伝えることの大切さ

大学時代にアントレプレナーシップ教育を受けたことで、自分の意思を強く持つようになりました。そして、自分の意思だけでもうまくいかないことが分かりました。何か問題が起こったときの解決策は、自分か相手、どちらかの中にあるのではなく、自分の考えと相手の考えをぶつけあった先に、ベストの形がある。それまでは、どちらの意見を尊重するべきかという考え方をしていましたが、お互いの状況も違いますし、考えも違うので、コミュニケーションを図りながら、より良い形を見つけるということが大切なのだと、実感しました。

当時の経験は、社会人になって仕事をする上での糧になっていると感じます。まず、何があってもくじけなくなりました。そして何より、やりたいと思ったこと、やったほうがいいと思うことは、熱を持って相手に話せるようになった。状況的に難しい場合もあると思いますが、その熱量が伝われば、一緒にやってもらえるかもしれません。「熱意を持って伝える」――。あのプログラムを受けたから、それがいまできているのだと思います。

これからアントレプレナーシップを学ぼうと考えている方は、「自分は何をしたいのか」と、たくさん悩まれる時期だと思います。まずは、自分が思い描く方向に近いほうへ、自分から歩み寄るということをしていただきたいと思っています。もちろん、人によってタイミングはいろいろあると思うのですが、恐れずに、挑戦していただきたいですね。